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がん患者の就労支援講演会記録

平成27年9月13日に、神戸市立医療センター中央市民病院 1階 講堂にて、がん就労支援講演会が開催された。講演テーマは、「がんになっても安心して働くことのできる兵庫県をめざして」というもので、橋口周子氏、西村裕美子氏、濱本満紀氏の3人の先生に、兵庫県内での取り組みの実際や課題・展望について講演をいただいた。

 最初の講演は、「当院での就労支援モデル事業~実施の実際と課題~」という内容で、県立がんセンター相談支援センター、橋口周子氏の講演であった。

 就労可能年齢でがんに罹患している割合は、3人に1人という統計データです。仕事を持ちながら、がんの通院治療をしている方は32万5000人(男性;14.4万人、女性18.1万人)もおられるということです。

診断時に勤務していた会社や営んでいた事業などについて、勤務者の34%の方が依願退職や解雇され、自営業の方の13%が廃業しているのが現状です。がんと診断された後の収入は、診断前の平均年収が約395万円だったものが、診断後では約167万円と半分以下に低下しています。

兵庫県立がんセンターでの長期療養者に対する就職支援モデル事業相談実績は、(2013年10月から2015年06月)相談件数89件、新規求職者41名、新規就職件数6件(内、2件は自己就職)

今までの就職支援から見えてきたことは、兵庫県立がんセンターでの就職支援の傾向として、①治療継続中よりも経過観察中の患者さんが多い。②診断後1~2年くらいの方が多い。③就職する際に、病名は伏せている傾向がある。④勤務先への要望が、比較的少ない方が多い。⑤就職先は、もともとのお仕事とは異なる業種に就くパターンが多い。ということがあげられます。

2年余りの就労支援を行ってみて「課題や難しさ」についてまとめます。①対応範囲の拡大の必要性。就業だけでなく、就職準備に関する支援や離職防止の支援などが必要です。②就職先の開拓が必要です。③がん患者は「就労困難者」の位置づけではないことからくる弊害。障害者雇用の特典が企業にないことが問題です。

医療者が就労支援を行うために次のことがあげられます。①前提として、労働・社会保障に関する知識を持つ必要があります。就労に関する支援は、医療のみでは完結しない。が、私たち医療者は、どうしても労働に関する知識が乏しい。そのことを自覚する。②職種による専門性を持ってできること、すべきことを考えると。–病院にいる医療・福祉職の専門性、得意分野を知っておき、適切に連携していくことが必要。③部署(持ち場)に応じてできること、すべきことを理解する必要があります。部署とは、病棟・外来、相談部門などです。

看護師ができる就労に関する支援として次のことがあげられます。①「仕事をすぐに辞めなくて良い」ことを伝える。②治療と仕事(生活)を両立できるような副作用対策や治療スケジュールの調整をする。③経済的問題の裏に就労に関する課題がないかを見極める。

次の講演は、「仕事とお金のお悩み相談会~専門家チームで支えたい~」という内容で、兵庫医科大学病院相談支援センター 西村裕美子氏の講演であった。

がん治療の進歩によって治療法の幅が拡大し、外来通院しながら治療を受けるといった、治療期の長期化がみられます。そういった中で、院内のみでは解決が不可能な経済的・社会的な支援に直面し、社会資源の提供に限界を感じていました。仕事と収入とは一体のものではないのか、対人関係において自分以外の他者へがんに罹患したことをどのようにどう伝えるべきなのか、経済的な問題と社会的問題は切っても切り離せないものではないかと考えはじめ、就労支援体制の充実を図る取り組みを始めました。次に3つの就労支援のアドバイスをあげます。

(1)治療しながら働くには・・・「治療をしながら仕事を続けたい」。これに対しては、どんなスタイルで働くことが良いか一緒に考えます。就労支援としては、就労と治療のスケジュールの見通しを説明したり、副作用の対策を看護師と一緒にしていったり、倦怠感や疲労が強い際には、今の仕事内容が続けられるように職場にどのように伝えるか具体的に話し合えるよう援助します。

(2)働くことが困難になったら・・・「もう仕事は続けることができない」。これに対しては、直ぐに辞めないでこれまで働くことで社会に貢献されてきました。使える制度はないか一緒に考えてみましょうと提案します。就労支援として、辞めないで継続していくことを支えます。

退職せず社会保障制度を受給できないか?傷病手当金や障害年金の申請きないか?既に老年年金をもらっている場合どうしたらよいか考えます。休職/病気休暇をとった場合使える制度は何かを考えたり、人事・総務課との交渉や伝え方のアドバイスをしたり、自営業の場合サポートしてくれる人や内容は何かについて、一緒に確認します。

(3)働く環境をどうしたらいいか・・・「仕事をどうしたらいいですか」これに対しては、復職の大変さを、誰にどのように話していくか一緒に考えます。就労支援としては、就業規則の内容はどうなっているか確認します。これらは、ホームページや人事・総務などで確認できます。

どのタイミングで、誰に(人事・労務関係者・産業医など)どのように話すか具体的に話し合い、伝え方のアドバイスをします。次に、仕事における復職後の自分の能力について知ってもらいます。最後に、がんの治療を行っている期間の休暇や勤務日、勤務時間など仕事ができる限度や許容を話し合う機会をつくるようアドバイスします。

今まで、2年で35名を支援してきました。

がん相談センターに相談してください。

気がかりや困りごとの「整理」をしながら、使える制度を確認し合う中で「一緒にみつける」ことをしてみませんか? 是非、兵庫県内のがん診療連携拠点病院にあるがん相談支援センターに相談してください、とまとめられました。

最後の講演は、「情報の過不足ない共有で 就労の課題解決へ」という内容で、がんと共に生きる会 副理事長 大阪がんええナビ制作委員会理事長 濱本満紀氏の講演であった。

患者の就労支援については医師・看護師の医療者が中心ですが、問題点は、情報の共有です。左図のような関係が望ましいのではないかと考えます

 患者・医療者・勤務先の過不足ない情報共有による円滑なコミュニケーションの存在が、就労継続を容易にするための前提になります。

相談のポイントは、①(がんに罹患したことを)誰に、どこまで知らせるのかを整理する。②日常の円滑なコミュニケーションに向けてのアドバイスをする。③休暇中には、どのようにしたらよいかアドバイスをする。④復職の時期に向けた準備と、復帰へ結びつける。以上4点を詳しく説明します。

(1)(がんに罹患したことを)誰にどこまで伝えるかを整理する。

伝える必要があるのかどうかを相談します。安全配慮義務との関係で、伝える必要があることも考慮しなければなりません。配慮するべき、してもらうべき事項があれば職場の担当者、患者の間で考えることも大切です。特に治療や後遺症等により、仕事に影響や支障が生じる場合、医療者の見解・指示の共有が大切です。

次に、患者の気持ち、職場事情を確認 します。本人の意向と職場の事情を照らし合わせながら、伝えるメリット・伝えないメリットを一緒に整理します。

(2)日常の円滑なコミュニケーションに向けて

職場の人たちが相談者を“見ている“ことを知る必要があります。病気のことを伝えても、伝えなくても、一緒に仕事をしていく仲間として、どう接していくかを改めて考える必要があります。

これからも気持ちよく安心して仕事を続けていくために、相談者自身にも出来ることがあるはずです。たとえば、コミュニケーションのちょっとした工夫 、感謝の気持ちを伝える、できることは精一杯する、「できないこと」ではなく、「できること」を伝えていく、このような工夫が大切です。

自分自身で職場での「居場所」を取り戻していく努力も必要です。

(3)休職中には

相談者は医療者を通じて自分の状況や見通しなどをしっかり把握、定期的に報告し、勤務先はそれを理解することが大切です。相談者は、お礼や、最近の自分の状況・今後の見通しを勤務先に伝えることをすればどうでしょうか。勤務先は、受入れ態勢の準備を整え、スムーズな復帰体制を整備してもらいたいです。

(4)復職の時期にむけた準備、復帰へ

患者は生活習慣を整えなければいけません。入院や治療などによって乱れた生活リズムを取り戻す努力をする必要があります。

模擬出勤などで実際にイメージをするのも大切です。患者は通勤に利用している交通手段で、通勤時間に勤務先まで行ってみる。勤務先はそれを見守る。このような取り組みが、良い結果をもたらします。

具体的な復職の時期・仕事内容を確認しましょう。復職に際し、患者と担当者は配慮の必要の有無・要望について改めて話し合うと良いでしょう。勤務時間短縮、配属先、事情の公表先や範囲などを話し合いましょう。医療者は引き続き、患者の職場復帰が最善の形を取れるようアドバイスしてもらいたいものです。医療者は、患者の仕事内容を理解したうえでの職場復帰に向けたアドバイスや、必要であれば勤務先との連絡を取って下さい。第三者の情報共有により、復職後の望ましい環境を作ることができます。

どういう状況のどういう形であれ、自分で自分の受ける医療や支援受け、その後の自分や家族の人生のあり方を選択できるようになりたいものです。

適切な情報を得て『選択・活用』する時、医療者や企業に留まらず、行政・議会や世論を含む社会全体が、良き伴走者としての役割を担うことが望まれます。

なによりもあなたとあなたの愛する人のため、かけがえのない日々を大切にして下さい。

以上が3人の講演の内容です。講演終了後に質問がありましたので、ここに記録します。

(1)就労支援のクリティカルパスができればいいなあ!

事業主が欲しい情報を医療者に出してもらいたい。→患者が話しかけやすいサポート室があればいいなあ

(2)新に職場を探すときに、人材派遣会社の正社員になる選択肢もあります。企業では週5日、8時間働くことを中心に採用する。企業によっては、1日4時間、週4日間働いて欲しい会社もあるが、この時は正社員ではなく、人材派遣会社に頼むことになる場合が多いです。

また、人材派遣会社は、今人材難で、採用を望んでいます。人材派遣会社経由で働いた後、体調が良くなれば、その会社の正社員になるという道もあります。

(3)職場から復職ができるという診断書がいるというので、半日程度働くことができるという診断書をもらったが、職場の長が就業規則を知っていなかったため、退職を勧告された。交渉できるためには、自分も就業規則を知る必要がある。

(4)就業規則関係は、法律上見れるようにすることが決められている。短縮勤務が取れないかを探る必要がある。

(5)難病医療と同様に「がん」にも就労制度を組み込む必要がある。

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